陽だまりの林檎姫
「今日はどういったご用件でしょうか。」

どうやらこの場を早く終わらせたい気持ちが同じ北都はさっそく本題にとりかかろうとする。

その声にようやく北都に視線を戻し、三浦は持参した資料を机の上に並べて北都への説明を開始した。

「新薬の発表の日取りが決まりました。素晴らしい薬ですね、これでまた多くの人が救われる。さすがですよ!北都さん!」

「…ありがとうございます。」

「そしてこれは今期の会社の利益とこれからの展望についてです。役員である北都さんにもご確認いただきたくて…。」

一度仕事の話が始まればそこからはもう終わるまで2人の世界に入り込む。

新薬なんていつの間に出来ていたのだろうか、全く気付かなかったなんて口にしようものならクビまっしぐらだ。

黙っていよう、いまは眺める時間だ。

美男子が向かい合うこの状況こそが目の保養になる一番の場面なのだが生憎とここに立ち会えるのは栢木しかいなかった。

それ故に三浦が去った後はいつもお姉さま方から三浦の様子を探る質問攻めにあうのだ。

やれ特定の女性はいるのか、その情報に繋がりそうなことは口にしていなかったのか、はたまたどのような女性が好みなのか、この屋敷にお目当ての人物がいるのかなど、考えるだけで飽き飽きする内容だったりする。

その先の不運を思いげんなりしているだけでどうやらそれなりの時間が過ぎたらしい。

「では、私はこれにて失礼します。」

「ご足労ありがとうございました。」

2人が立ち上がると栢木の背筋も伸びてまた営業用の笑みを浮かべる。

「お見送りを。」

「はい。」

北都の言葉にすぐさま答えると栢木は三浦に向き合って扉に手を差し出した。

「どうぞ、こちらへ。」

「それでは。」

三浦の会釈に答える北都を背にして2人は応接間を後にする。

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