陽だまりの林檎姫
「お元気にされていましたか？」

2人になるなり三浦は軽く栢木に話しかけてきた。

栢木にとってはここからがちょっとした面談時間だ、即座に適切な言葉を選んで答えなければいけない。

「はい。おかげさまで。」

言葉短く、かつ愛想も忘れずに。まるでかつての生活のようだと胸の内で苦笑いをするが三浦は知る由も無かった。

慣れていると言えばそうだが油断は禁物、栢木の背筋が伸びる。

「北都さんの相手は骨が折れるとの噂ですが、長く続いているということは栢木さんと相性がいいのでしょうね。」

「光栄です。」

「それとも栢木さんがあの北都さんを操っているとか。」

「そんな、ご冗談を。」

他愛のない上部だけの会話は広く長い廊下を歩く時間だけ続いていく。

やがて開け放たれた玄関の扉が見えると、ちょうど三浦の馬車がロータリーに現れた。

ホッとした栢木とは対称に三浦は悩まし気なため息をこぼして足を止める。

「やれやれ。」

「どうかされましたか？」

「うちの御者は仕事が良くできて大変優秀なのがタマに傷ですね。」

その言葉の意味が分からず栢木は表情だけで疑問符を投げかける。

「もう少し栢木さんとお話していたかったのですが…残念です。」

言葉通り残念そうな笑みを浮かべて三浦は栢木を見つめた。

「どうぞお気をつけてお帰りください。」

困ったように微笑むと栢木は恭しく頭を下げてこの話題を断ち切る。

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