陽だまりの林檎姫
「お前は自分の事だけを考えいればいい。」

包み込むように肩に回された手がより強く栢木を北都に近付ける。

北都の気持ちが強いのだとそれだけで十分に伝わってきた。

不安は拭いきれない、でも勇気はわいてくるから不思議だ。

「栢木。」

「はい。」

「戦うと決めたなら…勝ってこい。」

ここに戻って来いと言われたような気がした。

落ち着きつつあった涙がまた溢れそうになり目が熱くなる。

「…はいっ。」

そう言うと栢木は両手を北都の背中に回してすり寄った。

いくら強く抱きしめても埋まらない心の隙間がもどかしい。

反面湧き上がっていく気持ちが栢木に安心と勇気を与えてくれた。

降り注ぐ雨が影を落とすように体中に響いていく。



動きがあったのは、それから間もなくの事だった。

ドンドンドンドン、と大げさな音を立てて北都の書斎の扉が叩かれた。

いつになく珍しい音の響き方に北都の視線もすぐに手元の本から扉の方へと集中する。

「北都様!マリーです!」

「マリー?」

扉を叩いた人物がマリーと分かるなり北都は本を閉じてすぐに扉の方へと急いだ。

何かあった、純粋にその思いが出て来て北都は迷わず扉を開ける。

「あ…北都様!」

「どうした、何かあったのか?」

拳を握り、今まさにもう一度扉を叩こうとしていたマリーと目が合った。
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