陽だまりの林檎姫
彼女の顔は不安でいっぱいになっており、それだけで良くない報せだという事はすぐに分かる。

一体何が。

「栢木が帰って来ないんです!」

すがるように叫ぶ声が北都の時間を止めた。

「ミライと買い出しに出かけて…通りすがりの人が落としてしまった物を拾っている間に居なくなったようなんです。買った物も一緒に居なくなっているのでもしかしたら違うかもしれませんが…。」

北都の目が大きく開いてその瞳が小刻みに揺れた。

栢木がいない。

「あの…まさかと思って連絡を…っ!?北都様!?」

マリーの言葉を最後まで聞かず、北都は横をすり抜けて階段の方へと走り出した。

ロビーでは何人かが心配して話しているようだ。

「北都様!」

マリーの声が階下に響いて一同が北都に注目する。

しかし北都はそんな視線を気にすることなく玄関の外へ走って行った。

途中同じ様に前を走る人物を見つけて彼女の名前を叫ぶ。

「ミライ!」

大きな声で呼ばれたミライは肩を跳ねさせて反応すると、思わぬ人物の登場に目を見開いた。

「北都様!?」

「はぐれたのはどの辺りだ?」

「金木犀の通りです。花屋と茶屋の前あたりで老婦人が荷物をこぼされて。」

ミライからの情報でだいたいどの辺りで栢木を見失ったのか把握すると、北都は1つの可能性を見つけて目を細める。

「俺も探す。見付けたらすぐに栢木を連れて屋敷に戻ってくれ。印として青色の旗を門に上げてくれればいい。俺もそうする。」

「はい!」

ミライは気合のこもった声で返事をすると追い抜いていく北都の背中を見送った。
< 194 / 313 >

この作品をシェア

pagetop