陽だまりの林檎姫

3.らしく生きること

「あら!まあやだ、大変!」

前から向かった歩いていた老婦人が思わず叫んだ。

彼女が手にしていた紙袋、どうやらバランスを崩してしまったようで上から果物やらがどんどん落ちてしまったようだ。

拾おうと手を伸ばすとさらに零れていく果物たちを見て、これは大変だ、そう思ったのは同時だったと思う。

「手伝いますね。」

ミライが自分の荷物を足元に置いて散乱してしまった果物を拾っていく。

自分も参戦しよう、そう思って口を開こうとした時に強い視線を感じてその方向を見つめた。

通りの向こうにある人影に目を細める。

街灯にもたれて腕を組む人物、その視線は間違いなく栢木に向けられていた。

そしてその人物とは。

「キ…っ!?」

目を見開いた栢木が一歩後ずさりをする。

本能が逃げろと警笛を鳴らしていた、しかし背後に気配を感じたと同時に声がかかり逃げ道は寸断されてしまった。

「アンナお嬢様、主がお話をと申しております。」

慌てて振り返っても見覚えのない人物が壁のように立って威圧をしているだけで、本人ではない。

さっき見た人物をもう一度確認してみたがそこに人影はなく形跡も感じられなかった。

幻だろうか、しかし栢木の体は震えはじめ、既にキリュウの腕に掴まっているようなものだった。

「ご足労願えますか。」

また別の声が聞こえて背後にいる男が1人でないと気付かされる。

栢木は頷きもしなかったが、男の1人が進む方向を促し威圧の空気で歩き始めてしまった。

片手で抱えていた紙袋を両手で引き寄せる様に抱え込んで唇を噛みしめる。

北都さん。

届かないと分かっていても北都の名前を胸の内で呟き助けを求めた。

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