陽だまりの林檎姫
必要以上に手に力を入れれば紙袋が音を立てる。

そうなると怖くて震えていることをキリュウに知られてしまうのだ。

「困ります。止めてください。」

声よ、体よ、震えるな。

「君が好きだから結婚を申し込んだんだ。小さな頃からずっと思っていたんだよ?純粋だと笑われるかな。」

涙よ、込み上げてくるな。

顎を引いてお腹に力を入れろ。ちゃんと告げないといけないのだ。

「結婚の申込みはお断りさせて頂きます。」

「何?」

「貴方とは結婚しません。…迷惑です、お引き取りを。」

ありったけの勇気と強気をかき集めて栢木はキリュウの目をまっすぐに見つめた。

屈しないと目に宿る光が栢木の気持ちを光らせる。

不機嫌そうに歪んだ顔が隠されたかと思うと、キリュウは声なき笑いを上げながらゆっくりを顔を上げた。

何かが変わった。

そう感じた栢木は口元に力を入れて構える。

「あー、そっか。うん、そうだったね。君はそういう子だった。」

自分の中で振り返るキリュウの思いは栢木には分からない。

しかし仕方ないと諦め、ため息を吐いたキリュウはまだまだ余裕を無くしていなかった。

「僕は求婚した相手に…つまりは君だね?うっかり逃げられてしまった訳だ。…何故僕が君を探しているか分かる?」

問いかけには答えてはいけない。

そんな勘が働いた栢木は目を細めるだけで思いを留めた。

しかしキリュウにはそれでも十分だったようだ。

「家を飛び出した君がどんな惨めな姿になっているかを見に来たんだよ。さぞかし貧しく空しい生活を送っているのではないかとね。」

予想もしない言葉を浴びせられ栢木は目を見開いた。
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