陽だまりの林檎姫
「それでは。また。」

頭を下げたままの栢木に声をかけると三浦は馬車に乗り本社へと戻っていった。

馬車が見えなくなってようやく大きな息を吐いて肩の荷を下ろす。

「まるで抜き打ちよね。」

そう呟いた声は誰にも聞こえていない。

栢木は両手を上に伸ばすとそのまま屋敷の中へと戻っていった。そしてその流れで北都の書斎に向かい扉を叩く。

「失礼します。栢木です。」

返事もないまま扉を開けるのはいつものことだ、北都もそれに関してはなにも言わなかった。

だから栢木はそのまま中へ踏み入り北都の机の前で立ち止まって口を開くのだ。

「三浦さんのお見送りを終えました。」

指示されたことの完了報告は必須だと栢木は滅多にない出来事に仕事をしている感覚を覚える。

どうせすぐに出て行けと言われるのだろうという覚悟も含めて北都の反応をそのまま待っていた。

それともチラリとこちらを見るだけで終わりだろうか、もしくは何の反応も無い無視という形をとられる可能性だってある。

どちらにせよ北都の動きを逃さないようにしっかりとその様子を見ていた。

「随分と外面がいいんだな。」

「…はい?」

予想に反した言葉が聞こえてきたので思わず聞き返してしまったが別に聞こえていない訳じゃない。

「まあ、お前には慣れたものか。」

鼻で笑われるように吐き捨てられたことが気になるが、北都の言葉の意味が理解できていないため栢木はどんな反応をとっていいのかが分からなかった。

珍しく言葉を発したかと思えば不機嫌な態度にやられる覚えはない。

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