陽だまりの林檎姫
「キリュウ殿。その言葉はそのまま貴方にお返しします。」

出来るだけ低く、そして強い気持ちを乗せて栢木はようやく自分の言葉を紡ぎ出した。

北都に教えられた言葉じゃない自分の心から出る本当の気持ちには今までの彼女と印象を違える。

「なに?」

それはキリュウも感じたようで、雰囲気の変わった栢木に対し目を凝らすと慎重な口ぶりに変わった。

栢木の目にはもう怯えの色は見えない。

「いつまで私という人間に拘るおつもりですか。縁が無かった女のことなど捨て置けばよろしいのでは?わざわざこのような遠方にまで足を運び私の行方を捜すなど、それこそ未練がましいのではありませんか。」

怒りにも似た強い姿勢にキリュウの態度もまた様子を変えた。

「…随分と他人行儀な物言いだね。」

「他人ですので。」

「一応僕たちは親戚になるんだけどね。従妹さん。」

「それだけのことかと。」

温度の感じられない一定の音で受け答えしていた今までとは違う。

強く突き放すような言い方はキリュウの機嫌を少しずつ損ねさせていった。

まだ怯えを隠しながらも淡々と答える栢木の方が味があったかもしれない、しかし今目の前にいる方がよっぽど彼女らしいと思うキリュウもいた。

昔の記憶が呼び戻されて諦めのため息を吐く。

「君は相変わらず素っ気ないね。そんなところも気に入っていたんだけど…今回ばかりはちょっと腹立たしかったかな。」

今なら許してあげる。

そんな言葉が続きそうな態度と口ぶりにも栢木は屈しなかった。

「どうぞお引き取り下さい。」

戦うなら勝て、それは北都が教えてくれた事だ。

戦うのであれば正々堂々と戦いたい。

< 201 / 313 >

この作品をシェア

pagetop