陽だまりの林檎姫
当たり前のように、定められたものだと言う様に栢木との精神的な距離を近付けてきた。

「君が僕の下に戻ってくる奇跡と同じくらいの確率かな?」

「それは…キリュウ殿の起こす確率、ということですか。」

キリュウは肩を竦めて楽しそうに笑みを浮かべる。

栢木は僅かに目を細めて視線を落とした、それはつまり牽制しているのだと安易に予想が付くからだ。

戻らなければ北都に危害が加えられてしまう、きっとそれはキリュウの言う様に腕に関わることなのだろう。

それだけは駄目だ。

栢木の瞳が戸惑いから大きく揺れた。

脳裏に浮かぶのは屋根裏でのあの姿、誰が置いたか分からないソファに腰かけ静かにページを進めて知識を深めていく北都。

自分の判断で北都のこれからを奪ってしまうかもしれない。

屈しないと決めていた覚悟もあっさりと崩れてしまう程の威力に足が竦みそうになった。

守りたい、その思いだけは確固としてあるのに。

「アンナが導く数値でもあると思うけどね。」

今のキリュウは何をしてもおかしくはない危うさを持っている。従わなければ確実に起こりうる未来になるだろう。

「私が…。」

涙が溢れ出そうになった時、栢木の頭の中にあの日の記憶が現れた。

雨の日の屋根裏部屋で、栢木を抱きしめてくれたあの時にくれた温もりと言葉が背中を押してくれる。

大丈夫だと、北都は言ってくれた。

しかし本当に脅迫を跳ね返すアテはあるのだろうか、それは優しさからのウソだったかもしれない。

だとすれば北都は何も盾を持っていないのだ。

むしろ自分の存在が凶器となりうる状況に栢木自身が耐えられるのか。

考えるだけでも恐ろしくなり栢木は全身を強張らせながら何度も首を横に振った。

「さあ…どうしようか、アンナ。」
< 203 / 313 >

この作品をシェア

pagetop