陽だまりの林檎姫
北都の両手はたくさんの人を救った奇跡の手だ、そしてこれから先も奇跡を作り出していく手だ。

それを自分が奪うだなんてあってはいけない。

絶対にあってはいけない。

「一緒に帰るかい?」

差し出された手は混沌の闇の中へ引き込むブラックホールのよう。

引き込まれたら二度と戻ってはこられない、でも術がない栢木は吸い込まれるしか道はなかった。

「私が…行けば…。」

自らの意思とは裏腹に手が進んで捕らわれようとする。

「君の結論は?」

ここで誓約しろとキリュウは促してきた。

僕の下に戻っておいで、キリュウの言葉が全身に響いて自然と口が開く。

「私は…戻りま…。」

まさにその時だった。

「失礼!」

栢木の腕を引っ張り、自身の方へと寄せる強い力によって混沌の空間が引き裂かれる。

鼻をかすめる柔らかな香りでその正体にすぐ気が付いた。

「…無作法だな。」

整わず肩を上下させて息をする姿にどれだけ走ってきたかすぐ分かる。

「北都…さん…。」

すがるような声が口からこぼれた。

「彼女はうちの者ですが何かありましたか?」

そう言い放ちながら栢木を庇うように背中に隠してキリュウと向き合った。

「うちの者とは心外だ。私の方こそ彼女の身内で、今まさに君とは関係の無い話をしていたところでね。」

身内という言葉に思わず栢木の体が反応して強ばる。

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