陽だまりの林檎姫
「かなり…奇抜な発想をするね。」

参ったと顔を逸らして鼻で笑う、しかし栢木はいたって正気に真面目な顔でキリュウにそれを訴えていた。

こういう彼女を過去に何度も見たことがある。

昔の記憶を浮かべるとキリュウの中で決定付ける何かを見付けたようだった。

栢木を射抜く、その視線の鋭さに思わず栢木も構えてしまう。

しかしその奥にある揺らぎも見えてしまった。

「まあ、君らしいといえばそうだけど。…じゃあ力づくの方がいいのかな?栢木の名をもつ君はそういう覚悟も持っているということだろう?」

キリュウがここに居て栢木の家から何も連絡が無いという事はそういうことだ。

ここで本人目の前に断りを出たところで公爵を介している以上戯言だと聞き入れられないのが現実、しかし栢木の名を捨てればそこから解放される。

しかし受け入れられないものは受け入れられない。

栢木はそうして育てられ、そうであると信じてここまで生きてきた。

「あの家で生まれ育ち、両親を尊敬している私にとって栢木姓であることは誇りです。何故貴方との縁談を断っただけで手放さなければならないのでしょう。」

「…なに?」

「家を出たのは埒があかなかったからです。逃げる方が話が早いと判断しました。しかし貴方の為に栢木姓を捨てる理由はありません。」

キリュウは目を細め口元に力を入れる。

「状況は何も変わりません。お引き取り下さい。」

「…ははは。なんだろう、腹立つな。僕が何の手配も無しに来たとでも思ってる訳?」

笑っているのに目が研ぎ澄まされたままのキリュウはその怪しい輝きに深みを持たせる。

少しずつ乱れてくるキリュウの感情は怒りの方向へと進んでいくのが伝わってきた。

ここまで関わってみて分かった、キリュウは狂っている訳ではない。

栢木に異常なまで執着する理由は分からないが、もっと奥が深い様な気がして心でぶつからなければいけないと栢木はそう思ったのだ。
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