陽だまりの林檎姫
感情の昂りから好戦的になりつつある栢木を止めたのは北都だった。

強い警戒心を持って再び栢木を自分の後ろに戻すと盾になってキリュウと睨み合う。

力づくで来る、そう構えて緊迫した空気を裂いたのはもう1人の声だ。

「何かあるんですか、キリュウ坊ちゃん。」

ふと背後から聞こえた声に反応し、全員が同時に声の主を見付けた。

「タクミ!?」

一体いつからそこに居たのか、少し離れた場所から歩いて来るタクミに全員の視線が集中する。

「君は…栢木家の。」

「侮らないで下さいよ、坊ちゃん。うちの旦那様がお嬢さんを放置する訳ないでしょうが。」

「タオット叔父さんか…ここに来てその名前を出さないでくれるかな。」

またもキリュウの声色が変わったが、その様子に北都は不思議な感覚を抱いて目を細めた。

何やらごそごそと胸元から取り出すと、タクミはタオットから預かった手紙をキリュウの方へ差し出した。

「旦那様からです。」

手紙とタクミ、2つの間を何度も視線が彷徨いようやくキリュウはその手紙を受け取る。

驚きが隠せない栢木はまだ口を開いたまま手紙とタクミとキリュウを忙しく見つめていた。

一体どういう展開なのだろうかと。

「ふ…っ。あははははは。」

手紙を開いて数秒、文字を読み進めていたキリュウは突然笑い声をあげた。

それにはさすがのタクミも面食らったようだ。

何が書いてあるのかと視線で問う栢木にタクミは肩を竦めて知らないと答える。

「あー…可笑しい。」

額に手をあてても笑い続けるキリュウはどこか奇妙だ。

しかし何が起こっているか分からない栢木たちはただその状況を見守るしか出来なかった。

「本当だよ…その通りだ。」

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