陽だまりの林檎姫
「外面の良さはお互い様だと思いますけど…。」

とりあえず褒められてはいないということだけは分かったので自分だけではなく主人である北都も巻き込む返しをしてみる。

睨みを利かされるのかと思いきや意外にも北都はまた鼻で笑うだけで言葉は無かった。

一体どうしたというのだろう。

「マリーに珈琲を。」

少しの間を置いて出された言葉は同時に栢木の退室を意味している。

そしてそのまま今日の仕事は終わりだと言っているのだ。

「分かりました。」

ここで感情の色を見せれば面倒くさいと思うのが相麻北都だろう、ならば栢木は淡々と感情も無く答えるしかない。

名残惜しさを一切見せることも無く書斎を後にしてマリーの下へと足を進めた。

「マリー、北都さんが珈琲をご所望です。」

「はい。じゃあ急いで準備をしないと。」

北都は自分から飲み物を用意させる時は必ずマリーに頼んでいる、というよりもマリー以外に頼んだことがない。

誇りに思う訳でもなくマリーは子供に甘えられているような感覚で、頼まれると嬉しいのだと語っていた。

栢木にはその感覚が羨ましかったのだ。

求められるどころか立ち去ることしか望まれていないなんて切なすぎる。

だから今日も少し寂しそうな表情でマリーの後ろ姿を見送ってしまうのかもしれない、しかしいつまでもそんな繊細な気分にさせてくれないのがこの屋敷のいいところだった。

「かーやーき!ねえ三浦さんとお話したんでしょ!?」

「何か言ってた!?まだ特定の女の人っていないのよね!?」

「今日もいい香りしてた!?」

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