陽だまりの林檎姫
そう零すとキリュウは手紙を持ったまま体を大きく揺らし始める。

その動きはまさに予測不可能なもので栢木もどう対処していいのかが分からなかった。

「ダグラスさん?」

ずっと違和感を抱えていた北都が窺うように名前を呼んだ瞬間、キリュウの体は糸が切れた操り人形のように地面に吸い込まれていった。

「ダグラスさん!!」

北都が駆け付ける前にタクミが動いてキリュウを抱える。

「あっぶね…っ。」

かろうじて地面にぶつかる前に抱えることが出来たが、さすがのタクミも焦った表情で驚きを隠せなかった。

すぐさま北都が駆け寄り意識を失っているキリュウの様子を観察する。

「失礼!」

首筋に手を当てたりして手際よく状況把握を進めていった。

その様子を見て初めて栢木はキリュウが倒れたのだと認識することが出来たくらいに突然の混乱に戸惑ってしまう。

タクミも神妙な面持ちで北都の動きを見つめていた。

少なくとも北都は自分たちとは違い、こうなる予感がして構えていたように感じる。

「栢木!すぐに医者を呼んできてくれ!」

「は…はいっ。」

「お嬢さん、俺がいきます。先生、坊ちゃんは寝かせますよ。」

タクミはすぐに走り出し戸惑いながらも栢木はキリュウに近付いていく。

タクミからキリュウを預かった北都は彼を抱えたまま内ポケットにある薬を見つけて目を細めた。

「栢木、彼に持病があることは知っているか?」

「い、いいえ。」

「そうか。ダグラスさん!しっかりしてください、ダグラスさん!!」

青ざめたキリュウは目を固く閉じたまま、何の反応もみせようとはしない。

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