陽だまりの林檎姫
タクミが戻ってくるまでの間、その場にはキリュウの名を叫び続ける北都の声が響いていた。

そしてキリュウは病院に運ばれたのだ。






浅い瞬きを何度も重ね、眩しい朝日に照らされてキリュウは病室で目を覚ました。

鼻を掠める匂いと肌に感じる空気が慣れ親しんだ屋敷でないことを気付かせてくれる。

「…目が覚めましたか。」

低く響かせた女性の声に反応してキリュウは視線だけを動かした。

「…アンナ?」

「ここは病院です。公園で倒れたことは覚えていますか?」

「…ああ、そうだったような。」

横たわったまま額に手を当てて記憶を取り戻そうとする。

その様子からは昼間の陰湿な空気は感じられず、栢木の記憶の中にいる昔のキリュウの姿に似て少なからず安心した。

「…迷惑をかけてしまったね。」

自分の腕に点滴が施されていることに気付いて思わず苦笑いをしてしまう。

「病気の事…伯父さんたちは知っていますか?」

「その顔は何?何か聞いた?」

「キリュウさんが持っていた薬の成分と症状で…予想が付いた病名は聞きました。」

「じゃあ余命が僅かだという事も聞いたかな。」

「はい。」

栢木の目をしっかりと見て話す姿勢が潔さを表しているようで心が痛い。

それは栢木の一番最初の質問に明確に答えなくとも察してしまう空気を持っていた。

やはりキリュウは誰にも明かしてはいなかったのだと、栢木の表情が曇る。

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