陽だまりの林檎姫
「不治の病だ。何の方法もなく、痛みを誤魔化す薬で生かされているようなものだよ。」

ようやく視線が栢木から天井へと移され、息苦しさから解放された。

諦めからなのか自棄なのか、吐き捨てる言葉にこれ以上の会話は迷惑であると言われている気がする。

沈黙が訪れた。

しかし栢木は席を立たずにキリュウの表情を見つめる。

伝えたいことがあるのだ。

「…2か月前、相麻製薬が新薬を発表したそうです。ご存知ですか?」

「…いや。」

「それは胸の痛みを抑え、痛みの原因となるものに修復を与える効果が期待されているものです。…キリュウさんの症状に効く新薬です。」

静かに寄り添う声は確かな光をキリュウの傍まで届けに来た。

聞き流そうとしていたキリュウの目は大きく開き、ゆっくりだが再び栢木の顔を見つめる。

「…まさか。」

「北都さんが開発しました。」

その言葉を聞いてキリュウは口を手で覆い目は大きく揺れて熱を宿し潤いをもたらした。

捨てた筈の希望が燃えカスの中から輝きを放ってキリュウを勇気づける。

「治りますよ、キリュウさん。」

キリュウの目から涙がこぼれた。

「治ります。」

栢木が微笑む、それがさらにキリュウの心を解放させる手助けをした。

「うう…っ。」

嗚咽をあげながらキリュウは泣き続け、静かな病室にその声を響かせる。

彼は少しでも解放されたのだろうか、栢木は黙ったまま自分を労わっていく彼を見守り続けた。


これも必要な時間だったのだろう。

しばらくして、落ち着きを取り戻したキリュウに栢木は温かいお茶を手渡した。
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