陽だまりの林檎姫
「…どうして僕じゃないのかな。これでも長年一途に思い続けていたんだよ?」

「キリュウさんが私に向けて下さるその思い、それとは反対の思いであるとお伝えすれば理解していただけますか?」

「…僕が君を大好きだという気持ちの?」

「それが本心であれば。」

思いがけない言葉にキリュウは目を丸くする。

全てを見透かしたような物言いはまるで誰かの様だと振り返り、それがあまりにも似ていた為可笑しくなった。

さすがは親子だと白旗を振りたくもなる。

「ははは。」

もう笑うしかなかった。

栢木の言葉に対して返す言葉をキリュウは持ち合わせていない。

追いつめて追いつめて、ようやくこの手の中に入れて握りしめたかと思えば水か空気のようにスルリとかわされていた。

この脱力感はなんだろう。

笑いを止めたキリュウは少し間をおいてまっすぐに栢木を見つめた。

目の前に立つ栢木はウィッグで髪が違うものの、美しく成長しているだけで中身はなんら昔と変わりはない。

やるせない気持ちが鼻で笑うという行為にしか表せられない自分にももう飽きてきた。

「何をしても手に入らないのならいっそのこと壊してしまいたい。そんな衝動に駆られるよ。…アンナちゃんには分からない気持ちだろうけどね。」

自虐的に呟いた声は風に乗って栢木の耳に届く。

悲しみを含んだ音に共鳴するのは木々だけではなかった。

切なそうに揺れる栢木の瞳にキリュウは初めて穏やかな表情を見せた。

それは懐かしいあの頃の面影と重なる雰囲気で、ようやく彼がキリュウであると栢木の中で頷きが起こる。

本質は変わっていないのかもしれないと、そう思った。

「君の成長を見れただけでここまでやってきた甲斐があったと、そう思えるよ。」

「キリュ…。」

「だから僕はアンナちゃんが嫌いなんだ。」
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