陽だまりの林檎姫
それは懐かしい記憶を呼び覚ます言葉、まだ少し声が高かった頃のキリュウの声と幼さしかない栢木の声が笑い声と共に弾んでいる。

幼い頃の2人のやりとりが思い出されて自然と笑みがこぼれた。

もしかしたらこの人は自分を取り戻すために甘えに来たのかもしれない。

助けを求めて手を差し伸べていたのかもしれない。

「私は好きでしたよ、キリュウさん。」

いつか告げた言葉を改めて口にすると少し変な感じがした。

「でも断ったじゃない。」

「はい。昔の話ですから。」

「何それ。」

呆れたように笑うとキリュウは横の机の上に置かれたタオットからの手紙に視線を向ける。

丁寧に、分かりやすく置かれたそれは誰かが気を遣ってくれた証だった。

「見た?」

「…いいえ。」

当然のように首を振る栢木にキリュウは信じる意味で何度か頷く。

そして顔を上げると目に焼き付ける様に栢木の姿を眺めて肩を竦めた。

「この病院を出たら大人しく帰るよ。叔父さんにも怒られたことだし…何回目か分からないけどアンナちゃんにもフラれたことだしね。」

「そうしてください。」

栢木の言葉にキリュウは目を丸くした。

「随分と厳しい物言いだ。」

「次にお会いする時も同様です。」

遠慮のない言葉にキリュウはどう表していいのか分からなくなる。

それもそうかと思い返して深く納得した。

この地に来て再会した時、栢木は明らかに表情は強張り友好的なものではなかった。
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