陽だまりの林檎姫
おそらくキリュウは縁談の話を取り下げてくれる。

そう思うと肩の荷が下りたのかタクミは深い息を吐いて前傾姿勢になった。

「ああ、疲れた。」

「お疲れ様。色々ありがとう、タクミ。」

「お疲れ様はお嬢さんこそでしょう。ああ、どっちかと言えば旦那様かな。」

確かに今回一番気苦労をかけたのは栢木家の当主であるタオットの筈だ。

タクミの言葉でようやくそこまで気が回るとタクミからの視線に気付いて首を傾げた。

「あの人、お嬢さんの縁談を断る為に爵位を放棄するつもりだったんですよ?」

「…ほ、放棄!?」

「伯爵家であるが故に断れないのなら、それを無くせばいいって家族会議で決めたらしいです。」

家族全員、文句なしの一致で決まったとタクミが続ければ栢木の瞳に涙が浮かぶ。

離れていても思ってくれていた家族の気持ちに言葉も無かった。

そんな栢木を見て微笑むとタクミから切り上げる声が放たれる。

「さ、そろそろ戻りますか。送りますよ、お嬢さん。」

「ええ、ありがと。」

「先生には感謝しないといけませんね。」

「本当に…。」

思い出すだけで胸が熱い。

あの広い背中、確かな強い言葉、どう表していいのか分からない程に栢木は北都を求めていた。

結局は北都に救われたのだ。

キリュウの件も、今の栢木がいるのも、そして栢木の大切な気持ちの居場所も。

「帰ろう。」

あの人の許へ、栢木の心は強く弾んで治まらなかった。

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