陽だまりの林檎姫

4.それぞれの道

キリュウと栢木の対峙の報告はタクミによってタオットに知らされた。

栢木邸の執務机で唸るタオットはどこかつまらなさそうな反応を返す。

「全く、人騒がせな小僧だ。」

この言葉はタオットの一番正直な気持ちだろう。

散々振り回された期間は短いものではない、費やした労力も出来れば会社経営の方に使いたかったものばかりで終わった今でもその疲労感は強く残る。

「爵位返還の前で良かったよ。あー、本当に肩が凝った。」

首を大きく左右に傾けてゴリゴリといういかにもな音をたてながら渋い顔で吐き出した。

「お前にも苦労かけたな、タクミ。」

「いえ。」

「それで…キリュウの様子はどうだ?治る見込みは本当にあるのか?」

「医者が言うには可能性は高いが絶対とは言えないと。なんせまだ使われ始めた薬なので。」

そうか、そう呟いてタオットは口元に手を添える。

一時期はいがみ合っていた相手だが元々は可愛がっていた甥っ子だ、思うところも深くあるのだろうとタクミはその様子を見守る。

眉を寄せて渋い表情を浮かべるが、区切りのため息をついて気持ちを切り替えた。

「開発者は相麻北都か…彼には色々な意味で世話になったな。礼がしたい、一度会ってみたいな。」

タクミは微笑みながら軽く頷くとタオットは想像を膨らませる。

「しかし、これほどの知識を持ちながら学位がないとは…実に勿体ない。余程の変わり者か?」

「まあ…普通では無いですね。」

「そうか。まあ人間そんなものか。」

コメントの仕様がないと言葉を濁すタクミにタオットも苦笑いで返すしかなかった。

「そう言えばあの坊ちゃんには何を渡したんですか?」

「手紙の中身か?」

「はい。」

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