陽だまりの林檎姫
すっかり三浦熱にやられた使用人のお姉さまたちがたちまちに栢木を取り囲んでくる。

こっちが何かを言う前に矢継ぎ早に襲ってくる質問はまるでちょっとした騒音だ。

面倒くさいが目をキラキラさせたお姉さま方に敵う訳もない。

「え?か、香り?覚えてない…。」

「ええー?するじゃないの、バラみたいな上品な花の香り?」

「ああん、そんなのいいから!どんな話をしたのか教えてよ。」

目の前で押し合う綺麗なお姉さま方の姿はある意味必見だった。

これが女の戦いかと感心しながらも強く求められた答えを探そうとする。

「話といっても当たり障りのない社交辞令的な定型文だし、とくに変わった様子も無かったと思うけど。」

やはりどう考えてもそれしか答えが無かった。

「それがいいんじゃない!不変の魅力、素敵さ!いいなあ、栢木。」

「本当、その時だけ変わりたい!」

「ねえ。北都様とずっと一緒だなんて御免だけどその時だけはいてもいいわ~!」

「最高の時間よね~。」

「北都様の傍につく唯一の利点!」

その時だけと繰り返し夢見るお姉さま方に最早威圧は無い。

普段は他人事で半分面白そうに可哀想だと栢木を慰める人たちだ、しかし三浦が訪れた時だけはこうして態度を一変させるのはどうも引っかかる。

これには何というか、面白くない感情が渦巻くのだ。

「…それはそれは。」

目を細めた栢木から放たれる冷たい空気に気付いたお姉様方は自己防衛のように自然と距離を取り始めた。

栢木の怒りを買ってしまった、そんな予感がして一斉に熱が冷めたようだ。
< 22 / 313 >

この作品をシェア

pagetop