陽だまりの林檎姫
「兄は父が選んだ女性と結婚して、やがてキリュウが生まれた。あの子を取り巻く環境は…まるで兄の昔を見ているようで正直ゾッとしたよ。」

繰り返していく閉鎖的な考え、進化しない世界にキリュウが潰されてしまうとタオットは恐怖を覚えたのだ。

逃げ道を作ってやらねばキリュウは駄目になる。

せめて他にも広い世界があるのだということを分かって欲しくてタオットは会う機会があれば積極的にキリュウと話をするようになった。

キリュウもそれに応えてくれ心の内を話してくれるようにもなったのだ。

その輪の中にまだ幼い栢木の姿もあった。

しかしそれを良く思わないダグラス伯爵はタオットを遠ざけるようになり、キリュウは本人の望まない寄宿学校へと入れられてしまう。

「キリュウも兄の様になってしまうのではないか、そう思っていたが予想とは違っていたな。ここに現れるまではどうだったかは知らないが、病にかかったことで狂ってしまったものが優しい心と混ざっておかしくなってしまったのかもしれないな。」

「それが死ぬ前の親孝行という事ですか。」

「そうだな。」

そう答えると思い出したようにタオットは笑い、何も書かれていない紙を眺めた。

「あの頃キリュウによく言っていたんだよ。お前なんか嫌いだって父親に言えるようになれって。」

初めてこの話をキリュウにした時、それは今のタクミの様に疑う様な疑問符を浮かべていたのも思い出す。

「言い返せるくらい強くなれ、言いなりになるなってさ。お前は父親じゃない、お前はお前なんだからって何度も言ってやった。」

「ああ、それで。」

「もしキリュウが逃げ道としてアンナを求めていたのだとしたら…あの言葉を書くことで何か変わるかもしれないと思ってな。」

キリュウの身を案じていたタオットをずっと見ていたからだろうか、栢木にもその思いがあったのかもしれない。

「それが当たりだったという訳だ。」

してやったりと口角を上げる悪い男にタクミは肩を竦めた。

あれだけ散々悩まされ振り回されていた割にはあっさりと解決する、その仕事ぶりはなんだろうか。

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