陽だまりの林檎姫
「だったら最初からやってくださいよ。」

「そんなもん知らん。言っただろう、最後の足掻きだと。苦肉の策が当たっただけだ。」

策にもならん、足元の石ころをなにくそで投げたも同然だと、あの頃の記憶を呼び起こして憤慨する。

そんな主人は見ていても楽しくないのでタクミは早々に切り上げた。

「もういいです。いずれ坊ちゃんも謝りに来るでしょうから仲よくやってください。」

「そうだな。酒でも用意しておくか。あ、病人にはご法度だな。」

ついさっきまでは一触即発状態だった相手にも関わらずこの変わり身の速さには呆れて物が言えない。

ただ振り回された感だけが残るタクミはとにかく休もうとその場を後にしようとした。

「では、これで。」

「あ、お前にも酒を用意しておくからな。あとで酌み交わそう。」

「高いヤツにしといてくださいよ。」

「ははは、任せろ。これで解決もしたことだし、あとはアンナが帰ってくるのを待つだけだな。」

声を弾ませるタオットの言葉にタクミは動きを止める。

「アンナはすぐにでも戻れそうか?」

そう話すタオットは愛娘に会えることが待ち遠しくて仕方ないといったものだ。

目を輝かせた主人に向けてタクミはしばし沈黙を貫いた。

どうする、言うべきか。

黙ったまま返事をしないタクミにタオットは笑顔のまま疑問符を浮かべた。

この感情は八つ当たりに近いが最終的にはこの人に振り回されたようなものだ。

そう結論付けるとタクミは悪そうな笑みを浮かべて首を傾げてみせた。

栢木のあの様子じゃすんなり帰ってくるとは思えない。

「さあ?どうでしょうね。」

含みのある答えにタオットから笑みが消える。

企みは成功した。

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