陽だまりの林檎姫
「さ、仕事しようかな。」

「やだ、掃除の途中だった。」

「いけない、呼ばれている気がする。」

各々適当に言葉を発しては集まってきた勢いどこへ栢木から離れていった。

そんな彼女たちの後ろ姿を見送って大きく息を吐く、すると同じ様なタイミングで北都の部屋から戻ってきたマリーが現れた。

「おかえり、マリー。」

「あら。」

まだ栢木がここにいると思っていなかったのかマリーは少し驚いたようだ、しかしすぐに笑顔に変わり手招きをする。

「ちょうど良かったわ。栢木、一緒に休憩しましょう。」

美味しいお茶を淹れるから、そう続けるマリーに栢木は微笑んだ。

「もちろん、喜んで。」

少しの嫉妬心も今はまだ隠しておけそう。

栢木はこれからの自分に喝を入れて前を向くことにした。

会話があったのなら今日は上出来だ。

そこにどんな感情が含まれていようとも言葉を交わしたという結果に変わりはない。

明日は声を聞くことさえ出来ないかもしれないのだ。


そんな毎日を過ごしていたある日のことだった。



「本社、ですか?」

思いがけない言葉に本社が何を指すか、あまりの突然さに理解するまで時間がかかってしまった。

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