陽だまりの林檎姫
タクミが後で教えてくれたのだ。

キリュウを医師に預けた後、北都は発作が出て倒れかけたのだと。

薬を服用して症状は治まったが決して無理はさせてはいけない体だ。

それは北都自身が一番よく分かっていただろうに無茶をして走って栢木を探し回ったのだ。

その疲れが出ていないかも心配でたまらない。

「北都さん。」

研究室の灯りを見て小さく呟いた。

声が聞きたい。顔が見たい。もう一度ちゃんとお礼が言いたい。

そして、伝えたい気持ちがある。

「まだですかー…。」

部屋の窓から研究室が見えるのは幸いだ、もどかしいが幾分か楽な気持ちで事が進められる。

あそこに北都はいる、研究室の窓から漏れる淡い光は栢木の眠りを誘っているように見えた。

今日は少し激しく動き過ぎたのかもしれない。

瞼が重たい、体の力も抜けていくのが分かる。

睡魔と闘う間もなく栢木は自然と夢の中へ吸い込まれていった。

それはまるで意識が底無し沼に落ちていくような感覚、抵抗も出来ずに体と意識が離れていくようにも思える。

浮いているのか落ちているのか。

体は重力に従って落ち場所を求めていた。

鳥が広い大空へ羽ばたいていく音が聞こえる。

不思議な心地よい感覚に浸っていると呼び戻す声が聞こえた。

「…栢木。」

「っはい!」

聞き慣れた声に本能的に反射して栢木は飛び起きた。

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