陽だまりの林檎姫
その瞬間に目に入った空は既に明るさを取り戻しつつあり、自分がどれだけの時間眠っていたか思い知らされる。

5分10分の話じゃない、夜が明けていたのだ。

「うそ…。」

寝過ごした。

自分の失態に気付き、血の気が引くと同時に状況を把握しようとさらに目で情報を入れようとする。

何かに引かれて階下に視線を移せば栢木を見上げる北都の姿があった。

久しぶりに見る主人の姿だ。

「北都…さん。」

声に出してようやく実感がわいた。

栢木は我に返ると慌てて髪の毛に手櫛を入れたり服を整えたりする。

慌てふためきながら身なりを正そうとする栢木に北都は呆れた声を出した。

「…何日もそうやってたって事か。」

その声はとても小さく栢木には届かなかったようだ。

「そんな所で寝るな。風邪ひくぞ。」

「は、はい。すみません。」

後ろめたさがある栢木は頭を下げて素直に謝った。

しかしまだいそいそと髪の毛を直したりと落ち着きがない。

時計を見れば陽が昇ったと言ってもまだまだ夜が明けたばかりで人々が動き始めたばかりの時間だった。

いや、まだ眠りの中にいる人の方が多いだろう。

本当なら栢木だってあともう一眠り出来る筈の時間だ。

「栢木、朝食のあと出掛ける。」

北都から聞こえたその言葉に栢木の動きが止まった。

忙しなく動いていた視線も止まり、ゆっくりと北都の方に戻していく。

北都は黙ったまま栢木を見つめ彼女の反応を待っているようにも見えた。

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