陽だまりの林檎姫
「は…い。」

絞り出したような力ない返事が朝早い庭に落ちる。

北都には届いたのだろうか。

そんなことを思っていると小さく頷いた北都は屋敷の入り口に向かって歩き始めた。

栢木はその姿をただ見送る。

北都の姿が見えなくなるにつれ、じわじわと感情が染み出てきた。

久しぶりに見た北都の姿、そして。

「うそ…。」

無意識のうちに声が出てしまった。

その声は弾むように高く、顔もにやけて仕方ない。

初めてだ。初めて北都から出掛ける事を知らされた。

今までは問い詰めたり追い掛けたりしないと共に行動が出来なかったのに、今回初めて出掛ける事を告げられた。

嬉しくて笑顔がとまらない。

「支度!支度しないと!」

高まる気持ちを抑えきれず、栢木は動き始めた。


< 232 / 313 >

この作品をシェア

pagetop