陽だまりの林檎姫
4章　ここにいる理由

1.その距離はゼロに近い

まだ朝の早い応接間にはマリーとダンの姿があった。

2人共は北都がこの屋敷の主として来る前から相麻家に仕える古株で、北都の成長を間近で見てきた人物だ。

相麻家が抱える馬車は2台、御者は2人いるが応接間に呼ばれたのはより長く仕えている方だった。

そんな2人は滅多に座ることのない応接間のソファに腰かけ緊張の面持ちで構えている。

目の前にいるのは屋敷の主である北都。

2人はたった今、北都から重要な事があるとその内容を聞かされたばかりだった。

「屋敷の者には明日、事を為してから告げて欲しい。必要な者には俺から直接告げる。」

北都の言葉をまだ消化しきれていない2人は返事をしようにも言葉にならない声しか出てこない。

冗談を言う様な人物ではないことはよく知っている、つまりこれは事実なのだ。

マリーとダンは互いに顔を合わせると困ったような、困惑した表情を浮かべた。

「あの、栢木へは…。」

おずおずとマリーが切り出したことに北都が視線を送れば言葉がしぼんでしまう。

怖い訳ではないが萎縮して思わず言葉を慎んでしまった。

「必要な者には俺から直接告げる。」

表情を変えることなく同じ言葉を繰り返した北都にマリーは頷くことしか出来ない。

愚問だった。

必要な者、それが栢木であると少し考えれば分かる筈なのに尋ねてしまった自分が恥ずかしい。

あえて言葉を濁した北都の気持ちを汲めなかったのかとマリーは自分を責めた。

「今日明日と…暫くは今まで以上に苦労をかけるが宜しくお願いします。」

膝に手を置いた状態で北都はゆっくりと頭を下げる。

「ほ、北都様！」

見てはいけないものを見てしまった気がしてマリーとダンは慌てて立ち上がり顔を上げる様に促した。

「止めてください！私たちにそのようなことをしなくても…。」

「そうです！止めてください！」

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