陽だまりの林檎姫
「あー、駄目だ。時間が無い!」

この中のどれを着てもいつも通りに違いない。

下手に気合を入れてもそれは気持ちの面なだけで見た目的には何も変わらないとようやく諦めがつきそうだ。

ベッドに並ぶ中でも少しだけお気に入りのスーツにしよう。

「よし!」

ターゲットを決めると気持ちを切り捨てる様に残りのスーツは片付けて身支度に取りかかった。

いつものように、そう思っていても自然と気合いが入ってしまう。

髪の毛をまとめウィッグを付けたら完成。手慣れた作業の筈なのにあれこれ気にしていたら普段よりも少し時間がかかっていた。

相変わらずこのウィッグの評価は低いけれど構わない。

キリュウの件も決着がついたが、やはり目立つという点を考えたらウィッグをつけた方が無難だと思ったのだ。

「うん、これでいい。」

やっぱりそれなりに似合っていると鏡の中の自分に笑顔を向けた。

かなり定着してきた茶色の髪の自分にも少なからず情は移っている。何より気に入って買ったのだから活用したかった。

櫛を通してもう一度角度を変えて確認をする。

納得の頷きをすると、さらりと髪をなびかせて栢木は部屋を後にした。

「おはよう、栢木。」

「おはよう!」

部屋を出るとすぐに声がかかり仕事が始まったことを実感する。

この家の住人達は朝が早い。

「おはよう。」

「おはよう。」

顔を合わせるたびに挨拶をかわしながら従業員用の食堂に辿り着き、食事を取って席についた。

温かい食事をとれるのは幸せなことだと思う。

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