陽だまりの林檎姫
服を必要とするという事はいつものように馬車の傍で待機ではなく、中に入って行動を共にするという事だ。

あの懐かしい感覚をまさかここに来て味わうとは。

だとすれば思い出される雰囲気に今の自分が不適合であることはよく分かる。

北都が傍においても様になる人物にならなければいけないのだ。

それはそれは結構な責任感が伴ってくると栢木は口元に力を入れた。

今からしても仕方のない緊張で鼓動が早くなる。

色んな感情が混在して落ち着かないが、嬉しい事もあるのだ。

「…私に服を買ってくれるんですか?」

「ああ。」

「私を連れて歩いても大丈夫なんですか?」

期待と嬉しさを半分、不安を半分抱えて答えを待った。

北都を治療してくれたタータン医師の様に栢木の素性を知る人物がいるかもしれない。

そうすれば北都や相麻製薬に迷惑がかかるかもしれない。

栢木の中で引っかかっている部分が露見してしまうかもしれない。

「迷惑か?」

「い、いいえ!」

北都の傍に居られるのであればどこであろうと付いていきたい気持ちがあった。

だからだろうか、窺う北都の言葉に早すぎるほどの反応で栢木は否定の声を上げる。

「…だったら構わないだろう。俺が望んだことだ。」

決まりだ。

北都の言葉を受けて栢木の顔はいきいきと輝き満面の笑みを浮かべた。

「はい!お供します!」
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