陽だまりの林檎姫
こんなこと今までない。

北都が自分から予定を告げて、共に行こうと誘ってくれるなんて嘘みたいだ。

「しっかりボディガードしてくれよ。」

「はい、勿論です!」

他社であろうが令嬢であろうがしっかり守り切ってみせると栢木は拳を握って気合を入れた。

頼りにされるのがこんなに嬉しくてくすぐったいだなんて知らない。

弾んで踊る心が抑えきれず小踊りをしながら窓に張りついて外の景色を眺めた。

隣町へはあとどれくらいかかるのだろうか。

「早く着かないかな~。」

歌うように呟いた言葉が北都の笑顔を誘う。

外の景色に夢中になる栢木の横で、北都が優しい目で微笑んでいた事には誰も気付かなかった。

「あっ!ねえ、北都さん!私っ憧れの服屋があるんです!」

窓に手をついたまま、栢木は満面の笑みで振り向いた。

何を言われるのかと身構えた北都だが期待に期待を重ねた栢木の目は有無を言わさない。

この押しの強さは何だろうか。

残念ながら北都に残された道は1つしかないようだった。

「…そこで選べばいいんじゃないか?」

「やった!!」

栢木の勢いに圧倒されながら北都は答える。

若干ひきつる顔を頬杖の手で隠して小さなため息を吐いた。

外の景色に逃げようかと窓を見れば栢木の楽しそうな姿が目の端に映る。

「そう言えばこうやってお話するのも久しぶりですね。研究は捗りましたか?」

相変わらずキラキラした笑顔を振りまきながら栢木は北都にこれまでの生活を尋ねた。

これまで以上の期間、同じ屋敷内に居ながらも殆ど顔を合わせていなかったのだ。

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