陽だまりの林檎姫
キリュウの病院から戻った次の日に一度は公爵家に出向くと外出をしたことがある。

治療の際に援助をしてくれた公爵だ。

ワタリ公爵家へは定期健診であると以前北都自身から教えられ、付き添いは無用だという申し出に素直に従った。

もしかしたら見られたくない部分があるのかもしれないと栢木は北都の希望を受け入れることにしたのだ。

だから栢木の知らない間に出掛けていても憤慨することはなく受け入れ、いつの間にか研究室に戻っていても寂しさを抱えるだけで耐え抜いた。

無理をさせて発作があったからだ。

「随分と久しぶりにお話する気がします。」

寂しさを耐えた素直な栢木の言葉に北都は目を丸くした。

そして仕方がないと言うように微笑んで答える。

「研究はまあまあだな。」

こうして向かい合って会話になるというのは本当に久しぶりだ。

顔色も悪くないし特に無理して痩せてしまったような印象もない。

やはり何も心配もいらなかったようだと栢木は安堵の笑みを浮かべた。

「そうですか。」

向かい合う姿勢が崩れない、どうやら今日は珍しく眠るつもりは無いらしい。

栢木の一方的な話に時折返される相づち、落ち着きを知らない栢木たちを乗せた馬車は目的地へ少しずつ歩みを続けていった。

こんな穏やかで楽しい時間を過ごすのは初めてだ。

気付けば既に隣町に入っており、栢木の求める店まで近付いていた。

「北都さん!ここ!この店です!」

「止めろ。」

北都の指示を受け栢木は御者の背中に当たる部分を叩いて馬車を止めてもらう。

ついに目的地に辿り着いたのだ。

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