陽だまりの林檎姫
鼻歌交じりに浮かれながら外に出ようとする栢木は後ろからの衝撃を受けて再び椅子の上に体を戻されてしまった。

北都が腕を掴んでいたのだと知ったのはその後の事。

「北都さん?」

状況が分からない栢木は素直に疑問符を浮かべた。

「お前の服を買いにきたんだろう?」

「は、はい。」

北都の言葉に頷く。まだ栢木には北都の真意が伝わっていなかった。

「今日の主役はお前だ。主従の関係は忘れて自由にしてろ。」

そう言葉を残すと北都は栢木を尻目に先に馬車を降りていく。

予想外の台詞に栢木は目を丸くしたまま固まってしまった。

一体どういう意味なのだろう。

その答えは扉を開けたまま、手を差し伸べて栢木を待つ北都の態度ですぐに分かった。

表情で外へ促す。

「あ…っ」

やっと北都の真意が分かった栢木は顔を赤く染め、おそるおそる手を取って馬車を降りた。

いつもと違う空気が自分を包んでいるような気がして胸が高鳴る。

歩き方が分からなくなりぎこちなくなってしまった栢木を北都が笑って手を引いた。

一体、何がどうなっているのか。

「この店か?」

「は、はい。」

エスコートされて入ったのは栢木が憧れていた店、それは女性用の式服を取り扱う上品な店だった。

中流階級の客を多くかかえるような雰囲気がある店だが、普段から店で服を買うことのない栢木には贅沢したような気分にさせてくれる特別な空間だ。

おそらく一般庶民が見ても少し敷居の高い、一度は憧れて贅沢をしたくなるような店だった。

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