陽だまりの林檎姫
いつもと違う扱いに戸惑っていると言った方がいいかもしれない。

どこに行くんですか?

そんな一言が口に出来ないくらい困惑していた。

どうしようもなく火照って仕方ない顔を押さえながら北都についていく。

やがて北都は一軒の店に入ろうと階段を上った。

数段上った先にある扉は北都に気付いて中から開く。明らかにさっきまでとは違う雰囲気に栢木の熱も一気に覚めていった。

「いらっしゃいませ。」

落ち着きのある男性が二人を出迎える。北都は栢木を先に通して中に入らせその後に続いた。

「う…わ…。」

思わず口に手を当てる。中に入ると吹き抜けがあり、天井からは豪華なシャンデリアが下がっていた。

床に敷かれた絨毯もやわらかい。ここは上流階級ご用達の店だと肌に感じる空気ですぐに分かった。

「堂々としてろよ。慣れてるんじゃないのか?」

横で栢木にだけ聞こえるくらいの音量で北都が呟く。

栢木は控えめに首を横に振り、そうで無いことを必死でアピールした。

それは偏見というものだ。

「いつも家で選んでたから来たことありませんよ!」

「…それも凄い話だな。」

声を潜めて話をしていると2人に声がかかって会話が止まる。

「いらっしゃいませ。」

さっきと同じように落ち着きのある女性店員が近付いてきた。北都は一歩前に出て女性店員の耳元で話しかける。

数秒の出来事なのに自分の知らないことが目の前で起こっていると寂しい気持ちになったことは秘密だ。

寂しさと距離が近いのではという嫉妬心が芽生えたところで店員は微笑み一礼する。

「どうぞ、こちらへ。」

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