陽だまりの林檎姫
少し下がって距離をとると、女性店員は手を差し出して進む方向を案内した。

個室に通されると店員はすぐに席を外す。

「北都さん…あの、ここは一体?」

よく分からない流れの一休みに、ようやっと口を開けて北都に問う事が出来た。

状況が掴めていない。

すっかり混乱している栢木に答えようと北都が口を開けた瞬間、ノックが響き、北都の返事を合図に再び女性店員が姿を現した。

腕には銀のような藤色のような、薄い光沢がある色のドレスがかけられている。

なんて綺麗な色だろうか、思わず見惚れてしまう程に魅力的な色だ。

「お待たせしました。どうぞこちらへ。」

「え…っ?」

笑いかけられても栢木には反応する事が出来なかった。

なんとなく分かった事は、このドレスを栢木が試着するということ。

「ほ…北…っ。」

焦ってうまく名前も呼べない。

「行ってこい。」

まっすぐな目に促され、戸惑ったまま栢木は店員に案内される通り試着室に向かった。

これは一体どういう事なのだろう。ふわふわとした気持ちが治まらない。

試着室の中、壁に掛けられた綺麗なドレスに目を奪われて更に気持ちが加速した。

「これを…?」

着るという事なのだろう、そう考えると戸惑いも手伝って手が震えてきた。

余計な期待が生まれてしまいそう。

「お支度を始めましょうか。」

店員の穏やかな促しに頷くと、栢木はとにかく従うことにした。

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