陽だまりの林檎姫
期待に応えられるだろうか。

栢木が支度をしている間、北都は用意された珈琲を飲みながらこれからのことを考えていた。

時間に余裕はある。

少し寄り道をしてしまったが無事に目的を達成できそうで良かった。

いや、正確に言えばまだこれからも予定はあるから最初の難問は突破した形だろう。

「相麻様、準備が整いました。」

新たな女性店員に声をかけられて腰掛けていたソファから立ち上がり歩き出す。

案内されるがままに付いていけば試着室の前に着くと同時に扉が開き、中から先に店員が出てきた。

「お待たせしました。」

一瞬栢木かと構えた北都は少し肩透かしをくらった気持ちになる。

しかし再び閉じかけていた扉がゆっくりと開き、北都はまた期待の気持ちを膨らませた。

やがて全開になった扉の奥から店員に手を引かれた栢木がおずおずと姿を現す。

「…あの…。」

北都の視線は栢木に釘付けだった。

シンプルなデザイン、しかしそれだからこそ目を見張るものがある。

ワンショルダーのドレスは鎖骨や肩を出す事により栢木の体を美しく見せていた。

肩甲骨が見えるくらいに開いた背中、腰の辺りはしっかり絞って動きがある様に見えるシフォンドレスにはデザイン性のある上品なフリルがあしらわれている。

柔らかなスカートは栢木の印象にもよく合っていた。

スラリと長い手足、肌の綺麗さが際立っている。

「…どうですか?」

久しぶりに着るドレスは懐かしい様な気恥しいような、複雑な気分だ。

顔を合わせても何も言わない北都の様子に少し不安になった。

緊張しながらも出来るかぎりの笑顔を見せて何とか場の空気を保ちながら感想を待つ。

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