陽だまりの林檎姫
さっきのスーツとは違う。

明らかに特別感のある仕様は何とも言えない緊張をまとうからそわそわしてしまうのだ。

無表情の北都に慣れてるとはいえ、さすがの栢木も何か反応がほしいのが正直なところなのだけど。

「そうだな…。」

待ちに待った声が聞こえたかと思うと、腕を組んで眺めていた北都が近付いてきた。

栢木の目の前で立ち止まるなり、おもむろに栢木の髪に触れる。

「北…。」

何かと尋ねる栢木を他所に、さらりとウィッグを剥ぎ取り彼女の本当の姿を引き出した。

栢木の金色の髪が重力にしたがって舞い降りる。

鮮やかで美しい金色の髪を目の当たりにした店員達は感嘆の声をあげて息を飲んだ。

「…北都…さん?」

疑問符だらけの栢木の前で満足そうに頷くと長く伸びた栢木の髪を一束掴んで口元に寄せた。

「…っ!?」

あまりの衝撃に声も出せず息を飲む栢木は瞬間に顔を真っ赤に染める。

「思ったとおり金の髪がよく栄えるな。」

着心地はどうだと聞かれても、前の台詞が頭の中を占拠して考える力が持てない。

もしかしたら他の誰かにあげるものを試しに着せているのだとも思っていたのに。

「こ…これ…私にですか?」

予感があっても確かめたかった。本当のことを言えば、全て声にして伝えてほしい。

「他に誰が着るんだ?」

顔が、体が、心が上限を知らない熱を帯びていく。

やっぱりそうなんだ、そう思うだけで嬉しくて他に何も考えれなくなった。

これは紛れもなく北都が栢木の為に選んだドレス。

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