陽だまりの林檎姫
「…必要なものだ。」

「はい!承知しました!ではすぐに行ってきます!」

頬を赤くして満面の笑顔を見せる今の栢木は舞い上がって周りを見る余裕など少しもない。

北都が頼みごとをしてくれた、少しは認められたのかもしれない。

認める機会をくれたのかもしれない。

だとしたらこんなに嬉しいことは無い。

それが嬉しくてうれしくて堪らないのだ。

「マリー!本社へ行ってくるー!」

急いで支度に向かう栢木はすれ違いざまにマリーへ喜びの報告をした。

「あら!栢木、本社なら馬車を準備するわ。」

「ありがと、マリー!」

栢木の騒ぎに巻き込まれて屋敷の中は賑やかに支度がされていく。

やっときたチャンス、それしか頭になかった栢木は気付いていなかった。

北都の放つ微妙な空気に気付いていれば、少しは気持ちに変化があったかもしれない。

しかし何も見えていない栢木は、直ぐ様支度をして飛び出すように本社に向かったのだ。

暫くすると同じ様にして書斎にいた筈の北都も身仕度を整えて姿を現した。

「北都様…お出かけですか?」

廊下の掃除をしていたミライが恐る恐る声をかける。

しかし何の返事がなくてもその格好と北都の足が確実に外へ向かっていることを思えばその通りだと察しが付いた。

だとすればやらなければいけない事があるではないかとミライは目を見開く。

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