陽だまりの林檎姫
「栢木の服を買いに行くと言っただろう。」

「え!?服ってこれのこと?!」

まさかの発言に今までの感情すべて忘れて叫んだ。

北都の目が座り、呆れた表情に変わっていくのが分かる。

栢木はさっきまで着ていた買ったばかりのスーツを思い出して顔を青ざめた。

しまった、余計なものを買わせてしまったと自責の念を唱えて背筋が凍る。

さっきまでの浮かれていた自分が恥ずかしい。

とんでもないたかりをしてしまったと冷汗しか出てこなかった。

「じゃあ、宜しくお願いします。」

北都の声で我に返ると既に彼が出口の方へ向かっていることに気付かされる。

慌てて駆け寄ろうとするがこの店構えに劣らない美しくも上品な店員が栢木の前に手を差し出した。

「え?」

その手は次の場所へと案内しているように感じて疑問符を浮かべる。

「お化粧直しはあちらで行います。」

「相麻様は別室にご案内致します。」

「ちょっ…北都さん!?」

栢木の声に視線を向けて応えるものの、北都はそのまま店員の案内に従って去って行ってしまった。

あの表情の意味は何だ。

そう自分の中で突っ込んでみたものの答えをくれる人はいない。

「どうぞ。」

結局それぞれ別の方向に案内され2人は別れてしまった。

不安そうに北都の方を見てもそこには誰もいない。

どれだけ考えても仕方がないな。

そのまま流れに身を任せようと栢木は腹を括って大きな鏡の前に座ったのだ。

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