陽だまりの林檎姫
「随分と溺愛されているんだな。」

「まあ…唯一の娘ですので。そのくせ恋愛結婚をしろと豪語するんですよ、どっちだって話ですよね?」

不満がたまっているのか口を尖らせた栢木は目も座っている。

まだまだそう言った話はあるのだろう、だとすれば今回のキリュウの件はかなり荒ぶる出来事だったに違いない。

「…俺の判断は正しかったな。」

「え?」

「いや。何でもない。気に入らなかったのか?そのドレス。」

胸の内に留めておけなかった思いが声に出てしまった。

不覚にも拾われてしまった呟きを切り捨てると、北都は気になっていたことを尋ねる。

結局栢木の本心はどうなのだろうかと。

「いいえ!凄く素敵で気に入りました!憧れていた好きな形だし、私なんかには勿体ない位で…。」

すぐ隣にいる北都に掴みかかる勢いで話し出したものの、次第に失速していき尻窄みになってしまった。

どうかしたのかと北都は表情で疑問符を打ち出す。

「あ、あの…このドレス北都さんが選んでくれたんですか?」

スカート部分のフリルに触れながら言いにくそうに栢木が尋ねた。

申し訳なさそうというよりかは恥ずかしいのだろうかという印象だ。

「いや。正確に言えば店員だな。背格好や目の色、雰囲気を伝えたら、後は来店した時の印象で決めると言っていた。」

「そ、そうですか!」

「俺が選べる訳ないだろ。」

「…ですよね。」

真っ赤になった顔を両手で包みながら栢木は何度も納得の声を呟く。

そうか、北都ではなかったのか。

ドレスもアクセサリーも髪型も全て店側に任せたものだと分かり安心したような残念なような複雑な気持ちになった。
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