陽だまりの林檎姫
「先生が女性を連れてこられるとは…沢山の女性が悲しい思いをされるでしょうね。」

「みな伯爵に夢中で誰も気にとめたりはしませんよ。」

互いに謙遜しあいながら褒め合う姿は少し異様な感じがした。

栢木から見てもミリアムは魅力的で、清潔感漂う若き紳士を周りの女性も放っておかないだろうと素直に思う。

多少フェロモンが濃いだけで、これくらいならと思う女性も多いだろう。

だが栢木が感じたのはそこじゃない。

「では失礼。」

いくつかの言葉を交わした後、流し目を残してミリアムは去って行った。

「巧い説明をしましたね。」

「嫌だったか?」

「あやふやな感じが否めませんが、誰も踏み込めないので流石だと思っています。」

栢木は褒めているつもりでも、北都は眉を上げてかわしてくる。

「あの、不躾を承知で窺いますが…先程の方とはお付き合いを深くされるつもりがないのでは?」

少し踏み込んだ言葉に北都の目が大きく開いた。

そして感心した様子でその声をもらす。

「鋭いな。何故分かった?」

「お2人共目が笑っていませんでしたからね。それに…先方からは嫌な空気を感じました。」

「驚いた。よく見てるな。」

栢木の向こう側に知った顔を見付けたのか、北都はまた笑みを作り会釈をした。

やはり北都の忠告通り、ミリアムと別れた後も絶え間なく人は押し寄せて北都に話しかけ、栢木の紹介を求める。

通称なのだろうか。誰もが北都を先生と称し、その度に北都は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

時には探るように、時にはからかうように栢木の存在を気にしながら相手との距離を測っていくようだ。

爵位を持つ者、称号を持つ者、ここに居る者たちはいずれも互いに知り得る程の名を持っている。

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