陽だまりの林檎姫
思った通り印象は悪くないようで五十鈴は目を細めて何度も頷いた。

「素敵な女性だ。これでは栢木さんが女性たちの針のむしろになるのも仕方がないか。」

五十鈴の言葉に周囲を見渡すと何人かの女性と目が合うことに気付かされる。

そのどれもが多かれ少なかれ嫉妬の色を含んだものだ。

どうやら割って入れる勇気がない女性たちのようで遠巻きに観察をしているようだった。

憂いから嫉妬むき出しまで様々な形の針が遠慮なしに栢木へ向かってくる。

これは仕事なのだから痛がっている場合ではない栢木にとって寧ろ女性陣はターゲットに近い。

余計な仕事を排除する為にも何事もなかったように視線を五十鈴に戻して平常運転に努めた。

「時に先生、次の研究は捗ってますかな?私は貴方の薬に助けられた人間だ。期待せずにはいられんのだよ。」

「ありがとうございます。ご期待に応えられるよう努めて参ります。」

「ははは。そう畏まらんでもいい。ではまたな。」

高らかに笑うと五十鈴は軽く頭を下げたままの北都の肩を叩いて去っていった。

豪快な人だな、そんな印象を持った栢木は横目で彼の背中を見送る。

「…北都さんの薬に助けられたと仰ってましたが。」

「ああ、侯爵のご令嬢が同じ病でな。」

北都の言葉に栢木は目を見開き眉を寄せた。

「何か言いたげだな。」

「あ、いえ。…意外とと言えば失礼になりますが…多くの方が患っているものとは思っていなかったもので。」

「驚いたか?」

「はい。」

栢木は胸の内を隠さずに素直に口にする。

正直なところ、栢木にはここまで患者数が多い病だという認識はなかったのだ。

画期的な新薬が開発された。

ただその言葉の表面だけを捉えていただけだと思い知らされ自分を恥ずかしく感じている。
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