陽だまりの林檎姫
「馬車を用意します。」

すぐさま御者に連絡し、馬車は急いでロータリーに回された。

息を切らしながら見送りの為に馬車の近くに付くが、北都の姿を見るとミライの心中は焦ってしまう。

「どうしよう。」

さっき栢木が急ぎの仕事を任されたと嬉しそうに出ていった。

北都の為に急いで戻ってこなければと。

だとしたら北都のこの行動の意味はどういうことなのだろうか。

「どうしよう。」

どうにも出来ないが焦りだけが募ってミライは視線が泳いでしまう。

栢木のことを忘れてしまっているのだろうか、でも残念ながら北都のこの動きには覚えがあった。

一度や二度ではない。

そしてこの行動の先にはいつも同じ結末が待っていたことも聞いていたし、ミライ自身も体験している。

「栢木…。」

門の方を見つめても栢木が乗って行った馬車が戻る気配はなかった。

それはそうだ、まだ本社にも到着したかどうかという時間しか経っていない。

「どうしよう。」

居た堪れなくなってミライは両手を祈るように組み合わせて口元に当てた。

「ミライ、公爵邸に行ってくる。しばらく戻らないよ。」

北都を馬車の中に乗せた御者のダンがミライに声を潜めて伝えてくれた。

熟練のダンはマリー同様に長く屋敷に仕えており、それこそミライよりもこの状況を案じている。

顔を見れば自分と同じように悲しげに揺らぐ視線とぶつかって泣きそうになった。

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