陽だまりの林檎姫
北都の声に視線を合わせれば、彼の視線の先には相麻千秋が見える。

千秋も立ち上がった北都に気付き、微笑みながら近づいてきた。

優しい、愛しいものを見るような表情で話しかけてくる千秋の傍にはいつものように三浦が控えている。

「北都、栢木も。楽しんでいるか?」

それは社長としてではなく父親としての温かみを持つ言葉。先に答えたのは北都だった。

「はい。」

栢木も同意するように微笑む。

「見違えたな、栢木。この会場の誰よりも輝いているぞ。」

「北都さんが見立てて下さいました。」

誇らしげに笑う栢木に千秋は何度も頷いた。

相変わらず無表情な北都を2人とも気にしていない。

話の流れを気にしながら三浦が横から顔を出し一礼をした。

「こんばんは、北都さん。栢木さん、社長の仰る通りこの場の誰よりも美しく輝いていらっしゃる。綺麗ですね。」

三浦の直球の視線と言葉を素直に受け止めて栢木は嬉しそうに微笑んだ。

それはいつもの余所行き笑顔ではない、心からの喜びを表したものだと3人は気付く。

「驚きました。そんな風に栢木さんに笑っていただけるなんて。」

「なんだ北都、不機嫌そうだな。」

「…いえ。」

栢木を褒めるという話題が盛り上がりそうな気配がしたのに気付き、北都の表情はいち早く冷めたものへと変わっていった。

こうして親子が並ぶ姿を見るのは栢木が雇われ初めての顔合わせの時以来だと心の中で感動する。

2人が顔を会わせることも滅多にないようだが、不思議と並ぶ空気に違和感のようなものは抱かなかった。

まるで血の繋がった本当の親子の様に2人よく似たものがある。

何か会話が始まるのだろうかと期待したが、それを止めたのは三浦だ。

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