陽だまりの林檎姫
「北都さん、あちらでワタリ公爵がお待ちです。」

「上得意のグレン公爵にお前を紹介して下さるらしい。行ってきなさい、グレン公はお前に興味があるようだ。」

それは顔を広くして損はないと言っている目だった。

北都は小さく了承の声を出すと、栢木にここにいるように指示をして三浦と共に歩いていく。

千秋と栢木、2人は北都の背中を見送り少しの沈黙を持った。

「グレン公爵ですか。」

「ああ、これからの北都にはあった方がいい繋がりだ。君のようにね、栢木。」

含むような千秋の言葉の意味が分からず栢木は首を傾げる。

身元がバレているのか構えそうになるが千秋の出方を窺うことにしたのだ。

「栢木が来てくれてから、屋敷が明るくなったと聞いている。北都も栢木を気に入っているようだ。」

「ありがとうございます。」

栢木自身は千秋に会うのは何回目かで言葉を交わしたこともそれに近い。

こうやって褒められてもどう受け止めていいのか分からない程、遠い存在だと認識していた。

日々の報告は三浦から受けていたのだろう、三浦が北都の変化を嬉しそうに千秋と分かち合ったと言っていた姿を思い出す。

きっと三浦の言葉をそのまま全て受け入れたのだろう。

とりあえずのお礼は口にしても、やはり千秋の言葉は受け止めることは出来なかった。

北都が自分を気に入っているなんてそんな自信はない。

嫌われてはいないだろう。

しかし気まぐれに詰めてくる距離も当然のように保たれている距離もまだまだ波のように翻弄してくる。

それでも何となく好意的な距離を保てるようになったと思えるところにまできたが、北都の抱えるものの大きさに触れていいのか迷っていた。

それは自分の立ち位置も含めてのものだ。

「どうした?不安そうだね。」

「いえ、私は…。」

「傍から見ればよく分かることだよ。」
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