陽だまりの林檎姫
本当はボディガードらしき仕事はまったく出来ていないのかもしれない。

意味がないといつも北都から言われる台詞が鮮明に思い出されたが、役目は果たせていると最近分かったことがあった。

「社長。」

「うん?」

「私の本当の仕事は、北都さんの傍にいること。なんですよね?」

栢木の言葉に千秋は言葉をつまらせ、目を見開く。

傍にいて北都の心に触れること、それが自分に与えられた仕事の最重要課題であると栢木は気付いたのだ。

それは三浦の反応で、マリーの言葉で少しずつ自惚れを確信に育てていく。

「頼りになるね。」

そう言って笑うと千秋はそれ以上口にしようとはしなかった。

やはりそうなのだ、栢木の中で確信に変わり自信になった。

自分はちゃんと役目を果たせている筈だと。

「じゃあ、仕事に戻ろうか。そろそろ栢木の出番になりそうだ。」

そう言うと千秋は栢木に手を差し出し、取るように促した。

よく分からずも千秋に任せてその手を取る。

「わっ!」

千秋に誘導されるまま歩き始めた栢木は人並みを潜り抜け進む速度に心が弾んだ。

まるで子供の探検のよう。

「北都さん。」

やがて2人が向かう先に北都の姿が見え、栢木は自然と北都の名前を呼んでいた。

しかしその瞬間、栢木の思考が止まる。

北都は数人の美女に囲まれ楽しそうに笑っているではないか。

どれも高そうなドレスや宝石を身につけて自身も宝石のように輝きを放っている、なんて煌びやか世界だろう。

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