陽だまりの林檎姫
あんなに笑う北都を見たことがない栢木は手の力が抜けそうになった。

「完全な作り笑いだな。」

千秋の声に引き戻されてもう一度北都の様子を窺ってみる。

そうこうしている間に北都がいる場所に辿り着き、千秋は颯爽と輪に入って挨拶をした。

「ワタリ公爵。」

千秋は輪の中心にいる人物に声をかけて皆の視線を集める。

「ご子息をお借りしてますよ、相麻社長。」

実に素晴らしい青年だと、立派な髭を揺らしてワタリは笑った。

「栢木。」

「北都、駄目だろう。彼女を放っておいたら。」

わざと皆の前で引いていた栢木の手を北都に渡すと、優しく北都を咎めた。

この場の空気に馴染めず、申し訳なさそうに栢木は会釈をしてやり過ごそうと試みる。

「はい。悪かったな、栢木。」

千秋に答えた後、栢木の手を取って申し訳なさそうに北都は微笑んだ。

「いえ。」

落ち着いた声で短く答える。

栢木の存在に誰もが注目し興味深い目で全身を舐めるように見られているのを感じた。

何とも居心地の悪さに鳥肌が立ちそうだがここは我慢だと栢木は笑みを絶やさず貼り付け続ける。

至近距離の品定めはやはり気持ちが良くないものだ。

「これはこれは。先生にはお連れがいましたか。」

「初めてお会いしますな。」

驚くグレンの横では嬉しそうにワタリが笑い、北都は真っ先に反応してワタリに向き直した。

「失礼しました、ワタリ公爵、グレン公爵。彼女は私の傍を任せています、栢木です。」

「栢木アンナと申します。」

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