陽だまりの林檎姫
視線だけで周りを見るように促し、栢木の視界に対象者たちを入れさせる。

確かに口惜しそうに栢木を見つめる女性は少なくはない。

容姿端麗、未来ある若き研究者に若い女性たちは憧れ、手に入れようとしているのだろう。

それは女性だけにあらず、ぜひとも娘にという親も同じだった。

自分からいける女性はおそらく一夜限りでも構わないという心づもりであろうなと読めた栢木は少し北都を気の毒に思う。

女性でも男性でも必要以上に追われるのは面倒なものだ。

お互い様だが外面がいいのも大変なのだと心底思う瞬間でもあった。

「まさにボディガードですね。」

どんなもんだと得意げに笑う。

「初めて役に立ったな、栢木。」

鼻をへし折るように畳かける北都に案の定、栢木の顔は引きつった。

「初めてって事ないですよ。日頃の活躍ぶりをお忘れですか?」

本来なら声を荒げて噛み付きたいところだが、場所が場所なだけに笑顔は絶やさない。

精一杯の淑女ぶりを発揮しながら怒気を含んだ声で抗議した。

「忘れるも何も、功績がないだろう。」

「…見つけてくださいよ。」

栢木の怒りをいとも簡単にかわして突っ込んでくる、普段からそうだったが北都は本当に容赦がなかった。

少し前に千秋にされたフォローも、このワルツの音楽のようにきれいに流れていってしまいそう。

「しかし今日は本当に助かっているからな。」

不貞腐れて外れていた視線を北都に戻せば聞き慣れない言葉をくれた北都にただ見惚れてしまった。

どうしたのだろう、言いようのない満たされない心で、ただ北都を見つめることしかできない。

しかし北都が褒めてくれたのは珍しいことでじわりと温かいものが気持ちを包んでいった。

何も構えずに出してきた言葉の意味は、真意はなんだろうか。そう探ろうとする前に嬉しさが込み上げてきた。

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