陽だまりの林檎姫
「うちの地方とは文化の違いから異なるところが多くて面白いんですけどね。こちらは派手です。」

「地方が違う人間から見なくても派手だぞ。」

「ふふ。そうですか。」

北都の言い方が楽しくて栢木はまたご機嫌に笑う。

酒が少し入っているからかもしれないがいつもよりも気分は高揚しやすかった。

「懐かしいか?お前はこういう世界が嫌になって出てきた訳じゃないんだろう?」

「そうですね。懐かしいかと言われれば確かにそうですけど…それ以外は特に抱く思いもありません。」

手すりに背中を預ける北都とは違い、栢木は庭に向かう形で室内には背を向けている。

ここに来る前の自分を思い出してみても特に今と大きな違いは見つからない。

生活面での違いは大いにあるが、気持ちの面での違いは時になかった。

夜会は滅多に行かなかったし、お茶会も頻繁にあった訳ではない。

母の教えで領地内外の様々な場所に出かけて人と触れ合うことが多い日常だった。

レスタ語を覚えたのもその一環だったからだ。

貴族同士の集まりが無意味だとは思わないが、そこまでの頻度は必要ないと考えるようになったのは当然だったかもしれない。

「嫌いではないんですけどね。でも必要な場所かと言われたらそうではないです。」

自分の思いを貫き通すのであれば、縁が無くなる場所だ。

「私はもう…自分がいたい場所を見付けていますから。」

それはもう栢木の中でとうに見付けていた答えだった。

ほんの少し誇らしい気持ちで見上げると栢木は北都に向けて微笑んで見せる。

夜風が栢木の髪を揺らした。

北都の中で繰り返し思い出される言葉、感覚、そして抱いてしまった思いが震える。

きっと無意識に動いたのだろう。

北都は栢木を閉じ込めるように両手をつくと、見上げたままの栢木の唇にそっと自分のそれを重ねた。

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