陽だまりの林檎姫
廊下の手摺りにもたれて吹き抜けを覗き込んだ。階下はすでに仕事が始まっているらしい。

本来ならこの時間は食事の仕込みや馬の手入れ位しか働いていない筈なのに。今日は何か行事でもあるのだろうか。

「栢木?」

一人、上から働く人たちを眺めながら考えていると声がかかった。

声のした方を向くと、そこには驚いた表情のマリーが立っていたのだ。

「おはよう、マリー。」

マリーの反応に違和感を覚えながらも朝の挨拶を投げた。

しかし彼女は栢木の声が聞こえていないのか、信じられないといったような顔で近付いてくる。

「貴女、まさか…一緒に行ったのかと…。」

何度も頭を小さく横に振りながら震える声をだして眉を寄せた。

「何?何の話?」

マリーの様子にただ事じゃない気配が感じられ、栢木は不安に駆られる。

しかしマリーは逆に栢木の反応に戸惑っているようだった。それがさらに栢木の不安をあおりどうしようもない時間が流れる。

「どうしたの、マリー?」

気持ちは真剣なのに何故か笑ってしまう。一体何の悪ふざけをしようとしているのかと茶化しても反応は悪い。

頭の中で過るマリーの言葉、確か彼女はこう言っていた。

一緒に行かなかったのかと。

「北都さんに何かあったの?」

一気に顔が強ばっていく。

マリーが北都の名前に反応したのを栢木は見逃さなかった。反射的に栢木はマリーの両腕を掴んで問い詰める。

「あったのね?」

真っすぐ向けられる栢木の視線からマリーはつい背けてしまった。それがいけなかったらしい。

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